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生物と無生物のあいだ



生物と無生物のあいだ
(福岡 伸一)

★★★★


私も普段から、生命とは何か、ということはよく考えていたのでした。考えれば考えるほど奥が深い問題です。仮に、地球以外の天体にも生命体らしきものが存在する場合、それは地球と同様に、タンパク質で構成され、DNAを持つのか、あるいは全く別の分子構造で自己複製を実現するのか、とか・・・。昔はそんなことを考えることもなかったのですが。学生の頃も、物理・化学の授業しかとってませんでしたが、今では生物学のほうが興味があります。

本書は、生命とは何かについてより深く考えるきっかけを与えてくれましたが、やはり結論は出ません。本書の言うように、自己複製ではなく、動的平衡こそがその答えだというのは、分かる気がするのですが、その動的平衡を可能にさせる要因・機能は何か、ということが本書でも具体的に説明されていません。そのあたりを詳しく書いた書籍があれば読みたいです。

本書で最も印象的だったのは、動的平衡である生物には、不可逆な時間の流れがあり、一度折りたたんだら二度と解くことはできない、そこが、部品交換できる機械とは違う点だ、という説明です。生命の営みに操作的な介入をすることの危険性も感覚的に分かりました。遺伝子組み換え食品の安全性の議論も、時間の経過とともに、動的平衡にどのような影響が出るかが論点なのでしょうね。

全体として、科学者が書く文章とは思えないほど、読みやすさと面白さが両立されています。科学技術系の仕事の話を、ある程度専門的に細かく、ドラマチックに描くことができる人は稀有な存在だと思います。また、大学での生物学系の研究者の考え方、研究室の様子が臨場感をもって書かれていて、私のいた工学系との違いも分かって面白かったです。

--
■読書メモ:

・ロックフェラー大学での野口英世の評判は悪い。野口の研究業績が死後50年経って検証されたが、意味のあるものはなかった。当時それに気づく人がいなかった。

・ウィルスは、一切の代謝を行わず、結晶化することもあり、物質的である。しかし自己複製能力を持つ。自己複製するものが生物、と定義するなら、ウィルスは生物と言えるが、生物か無生物かの結論は出ていない。著者は、生物ではないと考える。

・DNAの二重らせん構造を発見したのは、ワトソンとクリックだが、そのヒント、つまりDNAイコール遺伝子だと世界で初めて気づいたのはオズワルド・エイブリーである。彼にノーベル賞が与えられなかったのは不当だと言われている。また、ワトソンとクリックは、不正に得た情報(ロザリンド・フランクリンの功績によるDNAのX線写真の覗き見)から発見に至った。

・米国の大学は、日本の大学のような教授・准教授等の職階間の支配関係はなく、独立した研究者であり、大学と研究者の関係は、貸しビルとテナントのようである。研究費は自ら稼ぎ、額に応じて研究スペースが割り当てられる。人の入れ替わりも激しい。

・シュレーディンガーの説:われわれの身体は、原子に対して何故これほど大きいのか。原子はランダムな熱運動をするが、原子が多数あれば、その平均的な動きに一定の傾向、つまり生命体の持つ秩序が生まれる。n個の粒子があれば、そのうちルートn個が平均的ふるまいから外れた動きをする。誤差率は {√n}/n であり、nが大きくなるほど、誤差率は小さくなる。人間の生命現象に求められる低い誤差率を実現するため、人間の原子数はこれほど多く、身体はこれほど大きい。

・エントロピーは増大する方向に向かう。それは死を意味する。食べることで、生命はエントロピーを下げることができる。

・シェーンハイマーの重窒素を用いた実験により、生命体とは、ダイナミックな流れ=動的平衡であることが分かった。

・細胞生物学とは「トポロジー」の科学であり、建築家に似ている。

・ある遺伝子をノックアウトしても、動的平衡がピースの欠落を補完し、分化・再生により最後まで「折りたたまれる」。不完全なピース(例えばプリオンタンパク質)を与えると、時間の経過により、折りたたみに失敗し、異常が発生する。生物には、不可逆の時間の流れがある。

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[ 2011/02/12 22:42 ] [読書] 科学技術 | TB (0) | Comment (0)

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Author:管理人 ■民間企業勤務(情報技術系)。米国から帰国後、首都圏在住。 ■趣味:海外旅行、読書(経済・ビジネス書、歴史小説、ミステリー)、スポーツ観戦(野球、サッカー、フィギュアスケート)、マスコミ批判。
―― 書評よりも、自分用のメモ・備忘録に重点を置きます。おすすめできる書籍が中心です。


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