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フィギュアスケート世界選手権2013: 採点方式・ジャッジの問題点、キム・ヨナの得点の検証

世界フィギュアスケート選手権2013(カナダ・ロンドン)が終了した。女子の結果は、
1. キム・ヨナ 218.31、2. コストナー 197.89、3. 浅田真央 196.47、4. 村上佳菜子 189.73、5. ワグナー 187.34、6. ゴールド 184.25、7. ジジュン・リ 183.85、8. オズモンド 176.82、....

フジテレビのくだらない録画放送を待たずに、Internetで生中継で見たが、特に、優勝したキム・ヨナ選手のスコアには大いに疑問が残る。以下にその疑問点を述べる。(誤解のないように言うと、演技そのものにケチをつけるつもりはない。良い演技だったことは認める。ただ、それでもスコアが出過ぎという話。)

まず、この試合のショートとフリーの採点の詳細を確認する。こちらのキム・ヨナのスコアを参照:
ショートプログラム・プロトコル (PDF)
フリー・プロトコル (PDF)
試合のスコア:
・ショート: 69.97 (TES 36.79, PCS 33.18)
・フリー: 148.34 (TES 74.73, PCS 73.61) ←このフリーが問題。

■ 世界選手権2013女子・キムヨナ選手のフリーのGOE・PCSのスコアの異常性:

(1) フリーのGOEの不自然さ:

キム・ヨナは、ショートとフリーで実施した同じ種類の要素(ジャンプ、スピン、ステップ等)について、それらの質は、ほぼ同程度だった。それなのに、フリーのGOEのほうが、一様に、判で押したように、異常に上げられている
キム・ヨナのGOEの上がり方(ショート → フリー):
・3Lz+3T: +1.4 → +1.9
・3F:  -0.2(e) → +1.9
・2A:  +0.86 → + 1.14
・StSq4(ステップ): +1.10 → +1.40
・CCoSp4(スピン): +0.86 → +1.21
・LSp3(スピン): +0.71 → +1.07
・・・・・
(いずれも、係数こみ。例えば、係数をかける前の、フリーの3Lz+3Tや3Fは、ほとんど「+3」。)


さらに、なんと、フリーでは、9人のジャッジ全員が、フリーの12個要素(全部で108ある)の全てに、 +1 以上をつけている。ゼロ、マイナスが一つも無い。これは不自然すぎる。

また、ショートでは、ほとんど無かった「+3」が、フリーでは激増している。

そもそもGOEの評価方法としては、各要素に、チェックポイントが複数決められていて、それらをクリアまたは違反した数によって、各ジャッジが、-3~+3の7段階で評価するが、どのチェックポイントをクリアしたとみなしたかは、記録に残らない。また、各チェックポイントのクリアの基準もあいまいで客観性が無い。例えば、ジャンプは、「高さおよび距離が十分」とか「音楽構造に要素が合っている」など、あいまいなものが多い。つまりジャッジの主観で、いくらでも +2を+3 に変えたりできる。また「○○選手の3Lzは、通常は+2でOK」のような暗黙の合意が支配的になってしまう。

こうした、いい加減なGOEが、いかに全体のスコアを大きく左右するかを見てみる。

今回のフリーの基礎点とGOE(基礎点の高い選手から順に):
浅田真央: 基礎点 62.30 + GOE 3.66
李子君 : 基礎点 60.60 + GOE 8.81
ゴールド: 基礎点 60.31 + GOE 4.91
キムヨナ: 基礎点 58.22 + GOE 16.51 (!?)

キムヨナは、基礎点は(完璧に滑っても)、出場選手中4位という、難度の低い構成だ。それでも、怪しい GOEで、浅田真央より13点、つまり3回転ジャンプ2個分以上も稼いでいる。これは、「採点の歪み」と言う他ない。

(浅田真央は、フリーでミスもあり、3F+3Loも入れなかったものの、基礎点は、出場選手中トップなので、基礎点・GOEとも、まだまだ伸びそうだが…。)

(2) フリーのPCSの異常な上がり方:

キム・ヨナは、ショートとフリーでは、演技全体の質は、それほど変わらなかった。しかし、演技全体の質を評価するPCS(演技構成点)のスコアは、フリーのほうが異常に高くなった。PCSの各項目の平均値は、
ショート 8.295 ⇒ フリー 9.201
と、実に1点近くも上がっている。

通常は、同程度の演技をした場合、PCSも同程度か、やや高くなる程度だ。例えば、この試合の浅田真央のPCSの平均値は、
ショート 8.100 ⇒ フリー 8.551
と、0.45ほどしか上がっていない。フリーのほうが良かったように見えたが、それでもこれくらいだ。

キムヨナのPCSも、仮に同じ上げ幅だと仮定すると平均8.7(これでも出過ぎ)となり、フリーのPCSは、69.6点くらいになるはず。実際は 73.61だったため、フリーのPCSで4点ほど盛られていると言える。

(3) PCSで10点満点の暴挙:

フリーのPCSで、10点満点を出したジャッジがいる。それも、のべ6項目も。10点満点というは、「これ以上は、物理的に不可能、これ以上やらなくていい」という意味であり、「フィギュアスケート女子シングルは、競技として、もう発展しなくていい、発展するな」というメッセージを発したことになる。競技に対する死刑宣告である。

だから、ジャッジは、よほどのことが無い限り10点満点を出してはいけない。しかも、複数のジャッジが同時に、こうした異常行動・暴挙に出たのは、事前に「キムヨナが良い演技をしたら10点出そう」という合意があったと思われても仕方がない。そうでなければ、簡単に10点を出せるわけがない。女子では、これまで、9点台すらめったに出なかったのだから。

なお、10点が出た項目は、
Performance / Execution (演技遂行)で2人
Choreography / Composition(振付・構成) で1人
Interpretation (音楽解釈)で3人
これら3つのPCSの項目は、ジャッジの趣味・主観・好き嫌いによるところが大きい。いくらでも言い訳ができる。

■ ルールの運用に問題がなかったか:

今回の、キム・ヨナのフリーのスコアの異常さの背景には、ショートプログラムのスコアが、韓国側の期待より低かったことがあるかもしれない(特にフリップの不正エッジで騒いでいた。実際はスコアは全然低くなくて、むしろ高すぎたのだが)。

韓国メディアの報道でも、ショートプログラムの採点への批判記事が多数載っていた。多くの記事はルールの無知によるいい加減なものだが…。また、猛烈なロビー活動をする韓国連盟のことだから、ISUにも、採点への異議など、何らかの働きかけがあったのではないか。

こうした空気が、フリーでのジャッジへのプレッシャーとなり、理不尽な高得点になってしまったと考えるのが妥当だ。

フィギュアスケートのルール・採点基準は、明文化された部分でもまだまだ問題が多いが、明文化されていない運用面での問題は、さらに多い。ジャッジの透明性の確保を急がねばならない。

※補足・追記
・本来のフリーのスコアはどうあるべきだったか(以下、概算)。まず、PCSは上記のとおり、約4点低くなる。GOEは、SPを参考にすると、SPの場合、GOE/基礎点 = 5.16/31.63 = 0.16。フリーも同じ比率とすると、GOE = 基礎点×0.16 = 9.32 となる。実際のフリーのGOE 16.51 より7点ほど低くなる。以上から、PCSとGOEで、合計11点ほど下がるはずで、フリーの本当のスコアは、137点くらいだった、と言える。

・金妍児選手本人も、得点が高すぎたことを認めている:「いい得点は出ると思ったが、こんなに高いものになるとは思わなかった。」http://www.jiji.com/jc/zc?k=201303/2013031700070&g=spo

・バンクーバー五輪のフリーより低いという指摘もあるかもしれないが、2010年の当時からルールが変わっている(GOEの係数縮小、スパイラル→コレオシーケンス、2Aを3回禁止など)。バンクーバー五輪のフリーも、スコアは高すぎたが、今回は、実質的にはそれを超えてしまっている。だからなおさら、その異常さが問題となる。2014ソチ五輪での再発防止を強く望む。



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フィギュアスケートの「世界歴代最高得点」「自己ベスト」は、ルール改正分を換算して比較せよ。

※ 一部、タイトルと本文を修正しました。

フィギュアスケートの報道で、「パーソナルベスト更新」「史上最高得点を更新」のような表現を見ることがあるが、単純に数字を比較するのは、意味がない。毎年ルール・採点基準が変わるからだ。特に女子は、バンクーバー五輪後、大幅にルールが改正され、高得点が出にくくなっている。異なるシーズン間でスコアを比較をする場合、ルール・採点基準の変更分を換算・補正しなければならない。そうしないと、実態と乖離した誤報になる。この問題を検証する。


■ バンクーバー五輪の頃は得点は、今のルールで換算すると、大幅に下がる:

例として、データ上の最高得点(SP,FS,Totalとも)である 2010年バンクーバーオリンピックのキム・ヨナのスコアが、現行ルールで、大幅に下がることを、計算して明らかにする。

SPのスコア補正
2010五輪・女子SPのプロトコルを参照し、キム・ヨナのSPの各要素(elements)の基礎点(Base Value)と GOEが、現行ルールでどう変わるかを示す:

3Lz+3T の基礎点: 10.0 → 10.1 (+0.1)
3Lz+3T のGOE: 2.0 → 1.4 (-0.6)
3F の基礎点: 5.5 → 5.3 (-0.2)
3F のGOE: 1.2 → 0.84 (-0.36)
SpSq4(要素削除): 5.4 → 0 (-5.4)
2A の基礎点: 3.5 → 3.3 (-0.2)
2A のGOE: 1.60 → 0.8 (-0.8)
2A が後半と仮定して基礎点1.1倍: 3.3 → 3.63 (+0.33)
<他の要素の変更は軽微のため省略する>


⇒ ルール変更によるSPでの差分の合計: -7.13
⇒ 五輪のSPのスコア 78.50 - 差分 7.13 = 現行ルール補正SPスコア: 71.37

フリーのスコア補正
2010五輪・女子フリーのプロトコルを参照し、キム・ヨナのフリーの各要素(elements)の基礎点(Base Value)と GOEが、現行ルールでどう変わるかを示す:

3Lz+3T の基礎点: 10.0 → 10.1 (+0.1)
3Lz+3T のGOE: 2.0 → 1.4 (-0.6)
3F の基礎点: 5.5 → 5.3 (-0.2)
3F のGOE: 1.8 → 1.26 (-0.54)
2A+2T+2Lo の基礎点: 6.3 → 6.5 (+0.2)
2A+2T+2Lo のGOE: 1.4 → 0.7 (-0.7)
SpSq4(要素削除): 5.4 → 0 (-5.4)
2A+3T の基礎点: 7.5 → 7.4 (-0.1)
2A+3T のGOE: 2.0 → 1.4 (-0.6)
3S(後半) の基礎点: 4.95 → 4.62 (-0.33)
3S のGOE: 1.4 → 0.98 (-0.42)
3Lz のGOE: 2.0 → 1.4 (-0.6)
2A(3回目)は回数制限違反のため 2Lz(後半)に変換 3.85 → 2.31 (-1.54)
(現ルールでフリーで2Aは2回まで。キムは3Lo跳べないため構成上2回転しか入らない)
2A のGOE: 1.4 → 0.42 (-0.98)
(2Aの当時のGOE幅から上記の2Lzの現GOE幅に変換)
ChSq1(要素追加): 0 → 3.5 (+3.5)
(基礎点 2.1, GOEは、五輪のスパイラルの+2相当=+1.4と仮定)
<他の要素の変更は軽微のため省略する>


⇒ ルール変更によるフリーでの差分の合計: -8.21
⇒ 五輪のフリーのスコア 150.06 - 差分 8.21 = 現行ルール補正FSスコア: 141.85

◆以上から、SP+FSの合計スコアは:
五輪でのスコア: 78.50 + 150.06 = 228.56
ルール改正による補正分: -7.13 - 8.21 = -15.34
⇒ 現行ルールの場合のスコア: 71.37 + 141.85 = 213.22

つまり、女子シングルの世界歴代最高得点とされているスコアは、現行ルール換算で、
SP 71.37点, フリー 141.85点、合計 213.22 点
くらいであると言える。五輪時でのスコア 228.56点より大きく下がることが分かる。

上記の例に限らず、他のトップ選手についても計算すれば分かるが、ルール改正によるスコア減少の要因としては、SPのスパイラル削除と、GOEの幅の30%削減が大きい。

(上記のキム・ヨナの2010五輪のスコアの換算では、あくまで、ルール・採点基準の変更分のみを対象にしている。キム・ヨナの五輪のスコアは、PCSやGOEの加点が大きく、インフレだったと言われているが、ここでは考慮に入れていない。もしインフレ分を考慮に入れれば、もっと低い点になることに留意されたい。)

選手の演技の公正な評価のために:

ただ単に「世界最高得点は○○点」のように報道するのは、選手の演技の正当な評価を妨げることになる。特に、2010年の五輪までに高得点を得た選手は、実態よりも不当に高く評価され、ルール改正後に活躍した選手は、実態よりも低く評価される。全ての選手の名誉のため「世界歴代最高得点は無意味」「比較するならルール改正分の補正をすべき」ということを、多くの人に認識してもらえるよう、フィギュアスケートの専門家や報道機関には、啓蒙活動をしてもらいたいくらいだ。

■ 浅田真央の2013四大陸選手権・SPは、事実上は世界歴代最高得点を更新(当時):

2013年の四大陸選手権で、浅田真央は、SPで2年ぶりにトリプルアクセル(3A)を成功させ、優勝した。このときの浅田真央のSPのスコア 74.49点は、下記の世界歴代最高得点の補正値(後述) 71.37点を大幅に上回っている。つまり、事実上は、女子ショートプログラムの世界歴代最高得点を更新しているのだ。

しかし、マスコミの報道では、事実上の記録更新と言わない。それどころか、浅田真央のルール改正前の自己ベスト 75.84 より低いため、「自己ベストに迫る…」程度の言い方しかされてない。演技の本来の価値が正しく評価されないのは、残念でならない。次の試合、2013世界選手権からは、まともな報道をしてほしい。

(なお、浅田真央が、SPで補正値換算でこれほど高得点が出せたのは、ルール改正によりSPで、2Aの代わりに3Aを跳べるようになったことが大きい。)
参考:2013四大陸選手権・女子SPのプロトコル



(参考)
五輪当時(2009/2010) ⇒ 現在(2012/2013) の、主なルール・採点基準の変更点
(軽微な変更、ジャンプのUR導入など最高得点には影響しない変更は、省略):
(1) GOEの加点・減点幅
・3回転ジャンプ:
{-3.0, -2.0, -1.0, 0, +1.0, +2.0, +3.0}
→ {-2.1, -1.4, -0.7, 0, +0.7, +1.4, +2.1}
・ダブルアクセル:
{-2.5, -1.6, -0.8, 0, +1.0, +2.0, +3.0}
→ {-1.5, -1.0, -0.5, 0, +0.5, +1.0, +1.5}
(ジャンプのGOE幅は約30%減。影響大。)
(2) ジャンプ基礎点見直し
3T: 4.0→ 4.1, 3S: 4.5→ 4.3, 3Lo: 5.0→ 5.1, 3F: 5.5→ 5.3, 3A: 8.2→ 8.5, 2A: 3.5→ 3.3.... など多数
(差分は小さい)
(3) SPでスパイラルが削除:
Level4の場合: 基礎点 3.4 {GOE -3~+3} → 0
(トップ選手の場合、スパイラルで5~6点取ってたのが無くなった。これは大きい。)
(4) FSでスパイラル削除・代わりにコレオシークエンス導入:
Level4の場合: 基礎点 3.4 {GOE -3~+3} → 0
コレオシーケンス:0 → 基礎点 2.0 {GOE -1.5~+2.1}
(トップ選手は、だいたい差引 2点ほど減る)
(5) SPの後半ジャンプは基礎点1.1倍
(微増)
(6) フリーで2Aは2回まで
(キム・ヨナのようにフリーで2Aを3回跳ばざるを得なかった選手は影響あり)

(参考) 国際スケート連盟は「世界記録」を認めていない:


歴代最高得点の類について、ISU(国際スケート連盟)は、"statistics"(統計)という表現で、数値を保存・公開しているが、"record"(記録)としては認めていない。ISU statistics のwebページ の最下段に
"The best results achieved in competitions operating under the ISU Judging System are referred to as “highest scores” and “personal bests”. The ISU does not currently recognize the highest scores as “World records”."
という記述がある。世界記録とは認めていないのだ。毎年ルールが変わるのだから当然だ。むしろ、誤解を防ぐため、ISUは、歴代最高スコアの情報は webから削除すべきである。特に2010五輪までは、得点の出方に問題があったため、上記のようなGOEの係数変更等の大幅なルール改正をしたのだから。



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Author:管理人 ■民間企業勤務(情報技術系)。米国から帰国後、首都圏在住。 ■趣味:海外旅行、読書(経済・ビジネス書、歴史小説、ミステリー)、スポーツ観戦(野球、サッカー、フィギュアスケート)、マスコミ批判。
―― 書評よりも、自分用のメモ・備忘録に重点を置きます。おすすめできる書籍が中心です。


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